ハンガリーで連想するもの、リスト、ハンガリー動乱、それにグラーシュズッペ。オーストリア南東部グラーツに近い国境から車でハンガリーに入った。
広大なハンガリー平野に、ひまわり畑と国道が続く。田舎の建物の様相がオーストリアのものと変わる。古びた家が多く、オーストリアの美しく飾られた建物とは趣が異なる。車も急に古びたものが多くなり、特にトラバンド、スコダ、ラーダなど旧東欧製が目につく。道路工事の所も多く、随分良くなったような印象。改修された所と、そうでない所との差が大きいので判断できる。無鉛ガソリンが無いのではないかと心配していたが、それは無用であった。国道沿いには立派なきれいな新しいガソリンスタンドが出来ており、いつでも入手可。以前、前任者から聞いていた話しとはまるで違う。これら新しい道、ガソリンスタンドとは対象的に、田舎の人々の生活は大変質素のように感じられた。リストのハンガリー狂詩曲を口ずさみなら、ハンガリーで一番大きなバラトン湖に沿ってドライブし、高速道路に入った。
この高速道路は南の方から首都ブタペストにつながっている。ブタペストは田舎とは雰囲気を異にしている。ほとんど西欧の町と変わりはない。商品は結構そろっており、またファーストフード店がすごい。マグドナルドは云うに及ばず、ピザハット、ダンキンドーナツ、ケンタッキーフライドチキンなどずらり。これは日本とかわりないではないか。ドイツよりアメリカ化されている。マツダ、ベンツなどの自動車販売営業所も多く見られる。古い建物の内部では、至るところで内装工事中で、おそらく事務所、商店、ホテルなどになるのだろう。
地下鉄の古い路線は、ヨーロッパではロンドンに次いで出来たという。ちょうど東京の銀座線のように、車体は古く、小さく、道路のすぐ下を走っている。しかし、新しい路線は大きな車体で美しい。値段はひと乗り25フォリント(約25円)と非常に安い。一方滞在したホテルはツインで270DMと結構高い。どうも物価はアンバランスになっているようである。若い女性はファショナブルで美しく華やかに町を闊歩しているが、一方では質素な出で立ちの人も大変多い。
1989年の変革の後、右派政権による経済改革が進められ、その結果が新しいガソリンスタンドであり、ファーストフード店の林立であり、西側諸国の自動車販売営業所であろう。しかし、4年経過して、GDP成長率マイナス2~5%/年、失業率12%、財政・貿易収支大赤字との結果であった。表面的な華やかさと、大衆の生活実態の格差、都市、特にブタペストと農村との格差が大きくなりつつあるようだ。
このためか、この度の総選挙では右派政権は過半数をとれず、旧社会主義労働者党の社会党が4年ぶりに政権に復帰することになった。新首相ジュラ・ホルン氏はハンガリー動乱当時、政府の治安部隊のメンバーであったという。しかし、今の資本自由化の流れは止めることは出来ないのではないか。資本主義と社会主義の融合したような新しい体制作りを模索せざるを得ないのではないかと思う。
ブタペストでの楽しみは、オペラ、オーケストラ、それにグラーシュズッペであった。ドイツでは、グラーシュズッペといえば、煮込みシチューのようにドロドロしており結構辛い。本場では、少しあっさりとしておりむしろ甘味を感じるほどマイルドな味で、美味であった。ドイツではドイツ人好みに工夫されているようである。食べ物はやはり本場で食べるのが一番。スパゲッティはイタリア、パイリャはバレンシア、ピルスビールはピルゼン、そしてグラーシュズッペはハンガリーである。
ウィーンに向かう帰りの高速道路は途中で終わり、後は普通の国道となる。国境近くで、厚化粧した女性がポツリ、ポツリと道端に立っているのを見た。グラーツから入った田舎の国境ではこのような光景は見られなかったが、ウィーンという観光大都市に近いこともあって仕事が成り立っているようだ。貧しいことが原因なのだろうか。