1997年5月30日金曜日

クレフェルド

  クレフェルドはデュッセルドルフの北25kmの所にあり、染色会社のクレスをはじめ、産業資材織物のフェルサイダッハなど有名なテキスタイル会社があるとともに、イタリアのテキスタイルメーカーのマンテロ社兄弟も学んだというテキスタイルデザイン学科を有する工科大学(ファッハホッホシューレ)、ヨーロッパではフランスリヨンに次ぐ織物博物館などを有し、ドイツの繊維の町として知られている。来欧してすぐの1月、雪の降る日、初めて車でクレス社を訪問、アウトバーンは除雪され問題なかったが一般道路に入ると雪のためスリップし、のろのろ運転で訪問したことを昨日のことのように覚えている。

  この5月19日の月曜日はキリスト教の聖霊降臨祭という日で、デュッセルドルフでは土日と続けて3連休となった。この期間このクレフェルドの東端にあるリン城はフラックスマルクトで大変賑わい、特に小さい子供を連れた親子連れで一杯であった。フラックスとは亜麻のこと。1315年、リン城の回りの亜麻を栽培する農民達が生活必需品と物々交換するために出来た市場がこのフラックスマルクトのはじまりである。その後この市場は食物も含めた生活必需品の市場として発展し、1903年まで続いていたという。このむかしの市場の面影を記念して1975年に年一回のお祭りとして現在のフラックスマルクトが再開され、今は毎年一回この聖霊降臨祭の3連休に開催されている。

  リン城を中心に城内のみならず町の一部も含めて日常生活必需品を売る出店でいっぱいである。特徴は中世のもの作りの有り様をそのまま再現していることである。中世の服装のおばさんが亜麻の繊維から手作業で紡績し、撚糸し、そして手機織機で織物を作る所まで実演しつつ、飾りとしての織物を販売する。また刺繍、ボビンレースなども実演しその製品を販売する。鍛冶屋も中世の装束で飾りものを作る作業を実演し製品を販売する。パン屋も同様。

  興味深かったのは紙屋さん。抄紙法は和紙と同じ技術であるが、透かしの作り方を実演していた。前の列には台がおかれ小さな子が見られるようになっている。子どもたちは食い入るようにその工程を見ていた。出来上がった透かしの入った紙を子どもたちは不思議そうに見入っていた。広いお堀に囲まれた芝生では中世の服装をした騎士たちが日本でいう流鏑馬の実演をしており、ヨーロッパの中世の雰囲気を知ることができた。

  それよりも、このお祭りで感じたのは、もの作りの基本は長い人間の歴史の中で営まれ、現在の最新技術も今までの技術を基礎に成り立っているということである。小さい子供達に昔の人々が創造してきたもの作りの面白味を言葉ではなく実際の目で見て体験させるという機会を与えているようである。

  ある子は亜麻が人の手により美しいボビンレースに変わる姿に、ある子は人の手によって鉄の姿が変わっていく様子に、ある子はパルプが紙に変わる姿に、など興味を示し、自分でもの作りをしてみたいと思う心が芽生えるのではないかと思う。このお祭りが、ドイツのもの作り技術伝承の一つの方法になっていると思った次第である。