このイースター休み、北イタリア、南フランスをドライブ、その初日、デュッセルドルフから約900km、ミラノから西80kmの所、アルプスの南に広がるピエモンテの平野にあるベリチェリに立ち寄った。スイスに入りアルプスの下を通る17kmのトンネルに入るまで、イースター休みのラッシュのため3時間もの大渋滞、このためベリチェリに着いたのは日暮れであった。
まわりの畑の一部は水が引き込まれ水田の準備中の所も見られた。ここは、イタリアリゾットの産地、お米の栽培で有名なところである。最近は日本のもみを持ち込んでイタヒカリなる米も作られているという。天気が良ければ遥か北にはアルプス、モンテローザの白い山並みが望めるが、日暮れのせいと、春霞のせいで残念ながら見ることは出来なかった。ちょうど北陸は小松付近の水田から見える白山と同じような光景で、合繊織物の産地、北陸の自然を見ているようで、なにか親しみを感じる。
翌日、建設中の新合繊織物会社を訪問した。イースター休みにもかからわず社長が工場を案内してくれた。工場内の機械はすべて準備完了、事務所もようやく完成して建設事務所から移ったところ。しかし、建物の回りの整備はこれからとのこと。試作生産も開始しており、6月の操業式までには回りの整備も完了しいよいよ本格的な工場のスタートとなるという。
世界的に見れば繊維産業は成長産業である。しかし、従来の素材を扱う限りは、その生産場所はコスト的に最適な開発途上国にゆだねざるを得ない。しかし、テキスタイル産業は化学産業とは異なる面を持っている。それは、ファッションと結びついていること。すなわち工業であると同時に工芸の領域にも入り込んでいる。ファッションデザイナーは芸術家と同じように、素材、色、形、それに風合いを使い無限の表現をする。人間には自分を着飾ろうとする欲望をもっており、それを満足させる人がファッションデザイナーである。画家が色とデザインで、作曲家が音と時間の組み合わせで無限の表現をするように、ファッションデザイナーは織物の風合い、色、柄、パターンなどを駆使して表現を試みる。
そしてこれらデザインの中から選ばれたものがまずはブランド商品としてでまわる。専門家は織物の風合いでもって服の仕立てばえ、見栄え、ドレープ性など判断し服を作っている。消費者はお金の許す限りより見栄えのする服を買おうとする。このとき無意識のうちにより良い風合いのものを選んでいるのである。
衣料用繊維産業の牽引車はこのテキスタイルの工芸的要素である。合成繊維は10年程前までは天然繊維に近づくことを目標にしてきた。しかし、新合繊の出現により、天然繊維にはない風合い、表面構造、機能性を生み出せることが確認された。これで可能性は終わりであろうか。テキスタイルの視点から、新しい合成繊維とテキスタイルがつくれるということ。この新会社がその開発体制の一翼をになうようになることを期待したい。
ベリチェリから南120KMにあるジェノバ、そしてサンレモ、モナコ、ニース、カンヌ、アルル、グルノーブルを経てデュッセルドルフにもどった。晴天に恵まれ、北イタリア、南フランスの自然を満喫したことはいうまでもないが、ニースの山の手にはルノアールが晩年過ごした町カーニュシュルメール、マルセイユの北にはセザンヌが生活した町エクスアンプロバンス、またゴッホが過ごしたアルルなど、芸術家が絵の対象にしたこれら自然も見て回った。
ミラノ、パリという、世界ファッションの発信地の近くにひかえるこれら芸術家が愛した自然環境、さらにはベリチェリ付近の北陸産地との類似性、など考えるとますますこの会社の地理的環境が新しい合成繊維の開発に最適の地であると認識させられたドライブであった。
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